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東京家庭裁判所 平成5年(少)4618号 決定

少年 I・K(昭49.6.22生)

主文

少年を中等少年院に送致する。

理由

(罪となるべき事実)

少年は、A(当時18歳)及びB子(当時19歳)と共謀のうえ、平成5年7月14日午前零時36分ころ、東京都江戸川区○○×丁目××番××号有限会社甲社パチンコ「△△」○○店地下1階事務所兼モニター室において、有限会社甲社(代表取締役C)所有の現金約24,098,000円を窃取したものである。

(法令の適用)

刑法60条、235条

(処遇の理由)

上記認定の非行は、少年が知人の自称Dという××会系の暴力団員から金銭の請求をされていたことから、A及びB子と共謀のうえ、少年が過去に勤務したことがあり、Aが犯行当時現に勤務していたパチンコ店から現金を窃取することを企て、各人の役割の分担など綿密な実行計画を立てて敢行した計画的犯行であり、被害金額が極めて多額で、被害金を共犯者間で分配してその一部を旅行などの遊興費に費消したという極めて大胆で悪質な犯行であり、Aが隠匿していた約7,000,000円が捜索により警察に押収されたが、その他は被害の回復がいまだなされておらず、犯行に至る経緯においては、少年が暴力団員から執拗に5,000,000円余の金銭を請求されて追いつめられていたという事情が証拠上は認められ、これを考慮に入れても、優に刑事処分を考慮しなければならないような重大悪質な犯行であると認められ、少年らの責任は重大である。ことに、少年は、犯行の主謀者であって、最も重要な役割を果たしており、共犯者相互の関係から考えても最も責任が重い。なお、Dという者はいまだに実在することが確認されていないが、証拠の上では、犯行に至る経過についての少年らの供述の信用性を疑わせるに足りるだけの事情もない。

少年は、幼少のころは、父母が共働きであったことなどから、家庭でかなりの淋しさを味わった。6歳の時である昭和55年12月18日に母の異性関係がもとで父母が協議離婚し、父が親権者となり、昭和57年4月に父は再婚した。少年は、父を慕ってその許で養育されたものの、父の躾や教育の態度は厳格で、ほとんど褒めてもらえず、厳しく注意されるばかりで、なかなか認めてもらえなかった。昭和62年に中学校に入学したが、父が友人関係にも厳しく監督するなどしていた。また、平成2年4月に高校に入学した後も父の教育姿勢はかわらず、少年は、父に反発を感じるものの直接反抗することもできず、家が窮屈でたまらなくなり、平成3年2月に高校を自主退学して家を出た。しかし、自立するだけの能力もなく、実母にも頼ることができないでいるうち、一時付き合ったことのある本件の共犯者のB子と再会して交際を続け、平成4年1月ころからB子と一緒にパチンコ屋を転々として住込みで働く生活を続けた。平成5年1月ころから、以前に付き合っていたDと証する暴力団員と再び付き合うようになり、Dから儲け話を持ち込まれ、早く金が欲しかったためにDから言われるままに本件の共犯者であるAを誘ったが、Aが話に乗らなかったことからDに厳しく咎められ、5,000,000円を支払うよう強く要求されるようになり、Dに払う金を作るために本件非行を行ったものである。

少年は、父に認められないため家庭に居場所を見出せず、家を出て自立を図ったが力が伴わず、暴力団員であるDとの交際の中で否定的な自己像や自信のなさを補強できたため、Dから儲け話に協力するようもちかけられたことなどから考えて、暴力団関係者との間では少年が供述している以上に深い関係を持っていたことも推測できるが、平成5年2月ころからDに不義理をしたとして厳しく金銭を請求され、周囲にも解決のための援助を求められず、自分を追い詰めてしまい、上記のような経過で本件を敢行したものと考えられる。自信が乏しく、物事を建設的に解決していくことができず、安定した人間関係を築くことも難しい。社会的自立ができるだけの能力が乏しいので、このままでは困難に直面した場合に自暴自棄に陥って失敗を繰り返すおそれが大きい。

上記のとおり、少年の年齢や、犯行の重大性などを考えると、刑事処分相当として検察官に送致することも十分考えられるけれども、少年には非行歴がなく、観護措置の過程で内省が進み、現在は保護者及び実母も少年の更生のために協力していく姿勢を示していることその他付添人の意見書に記載されたもののうち記録上認められる更生のための好条件などを考慮すると、なお少年として保護処分の枠内で施設内における矯正教育を実施することが相当であると認められる。

よって、少年を中等少年院に送致することとし、少年法24条1項3号、少年審判規則37条1項を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 五十嵐常之)

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